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コロナだもの、恋を語ろう

 投稿者:竹島蹄山  投稿日:2020年 4月 6日(月)21時31分33秒
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    えー、わたくしという人間は、どうも根がいっちゃんと申しますか群獣伝と申しますか、人生に行き詰まるとすぐ春日部に足が向いてしまうという癖がございまして。昨年春頃でしたか、あるはずのない獣共の残り香を求めて、春日部の町をうろついていたのでございます。


 と、目に留まりましたのは食事処・相模屋。ああここは、と記憶が蘇ります。すでに皆様ご案内の将棋道場のダメ席主、Kの婿養子先です。よし取材かたがたここで一杯ひっかけるべえや、万が一でもKがいるかもしれないし、と店にチン入でございます。

 店内の様子も味も徹底して可もなく不可もなく、といったところ。ビールと煮込みで飲み始めます。

 と、ずいぶん長く勤めていらっしゃると思しき姐様が。
「ねえ、ここのご主人は昔将棋道場をやっていたでしょう?」
「え?ああ、大女将の旦那さんのこと?」
大女将の旦那なら大旦那のはずでございますが、そうならないのがKらしい。
「懐かしいわねえ、そんな話ひさしぶりだわ」
「お元気なのかな?」
「あ・・・」
ちょっと表情が微妙です。
「もう施設にいるのね。生きてはいるんだけど」
最後の道場をやっていたのが20年以上前で、その時還暦すぎですから、そうなっても不思議ではございません。
「そうかあ、お気の毒だね。奥様はお元気なの?」
「大女将は元気よう。最近は新館のほうにしか行かないようだけど」
「え、新館?ここ新館ができたの?」
「線路の反対側に大きなホテルがあるでしょ?それが新館」

 なんでも相模屋一族はKの息子の代から大発展を遂げ、駅前にビジネスホテルを大建立。そこに食事処として2号店を作り、大規模宴会や仕出しにも対応できるようになったとのこと。

「息子さんと大女将が本当に頑張ったのよ。ホテル落成式には大塚家具の社長とお嬢さんの久美子さんも来て下さって」
なるほど、春日部らしい。

 私はKの心中を思いました。自分とは全く無関係に発展していく一族。何度もつぶれる将棋道場、競輪競艇の日々・・・・・。
 その日は姐様にチップを握らせ、あれこれ考えつつ、最後は電車で爆睡しつつ家路についたのでした。





 そして昨日。

 例によってまたまた盛大に行き詰まった私が野田線で向かったのは春日部駅。今回は相模屋新館に突撃です。

 入って驚きました。昼時を少し過ぎているのに満席です。老人会のウォーキングサークルの打ち上げらしいのですが、地域の固定客をつかんでいるならば安心でしょう。
 ちんたらと飲み始めます。飲んでばかりです。

 どうも混雑していて昔のことなど聞きだしづらいのですが、ハイボールのお代わりをもってきたお姉さんに簡単に用向きを話すと、
「大女将はもうすぐ来ますからお話しときましょう」
とのこと。

 待つことしばし。
背筋のピンと張った銀髪の、それはおしゃれな綺麗なご婦人がやってまいりました。

「あ、あの、わたくし竹島と申します。子供のころから旦那さんにはお世話になっておりまして」
「あらあら、そうなんですか、どういった?」
「え、えーと、旦那さんはむかーし市役所のそばに将棋道場をやってらしたでしょう?そのあとは踏切のそばでまた。どちらも通ってまして、特に子供のころ本当にやさしくしていただいて・・・」



 大女将は軽く笑いました。
「ふふ、まあ優しい人ではありましたからね。どうもありがとうございます。ごゆっくりしていって下さい」
そう言って帳場に入ってしまいました。



 あ、こんなもんか。まあ、こんなもんなんだろうな。でも大女将に会えたからいいか。私はハイボールの残りをやっつけ勘定を済ませ、外に出ました。


 見上げると春日部の空は、なんの意味もなく快晴でした。
 どうしようかな、これから。104歳の田村のところに取材に行こうかな・・・。
 その時でした。

「竹島さん!!」

 振り向くと大女将が立っていました。

「さっきは、本当にごめんなさい。せっかく来ていただいたのに。わたし、将棋が大嫌いなものだから・・・急に将棋道場って聞いて」
 「ああ・・・旦那さんのことでご苦労を・・・・」
 「ええ、わかるでしょう?」
 「わかります」
大女将の目が涙で潤んでいました。

 「でもいいんですよ」
 「・・・・・・」
 「わたし、彼を愛していたから」
若い娘のような声でした。


 思わず大女将の手を握り、どうぞいつまでもお元気で、と繰り返し、深々と礼をして相模屋をあとにしました。
 そしてめちゃくちゃに街を歩きまわり、フリー雀荘に飛び込んで2200円負けて、ようやく正気に戻りました。

 自分は春日部の青空の下、なんという言葉を聞いてしまったのか。

チンポだよ!チンポだよ!!
獣のままで生きていけ!!

 この嵐のような言葉のそばに、一輪の花のように添えてほしい。

 わたし、彼を愛していたから




春日部群獣伝には、人生の全てがある。
 
 
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